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November 29, 2005

焚き火大全

まちの図書館にいったら「焚き火大全」という本があったので、よのなかにはいろんな本があるよなあと感心して借りてきた。いえにもどってひろげてみると、まんなかへんに一枚の紙切れがはさまっていた。カウンターで本を借りるときに必ずわたされる貸し出しの記録のしるされた感熱紙で、おおきさといい、感じといい、買い物をしたときにレジで渡されるレシートと似ている。そこにはそのとき借りた本が列記されていて、たぶん、おれのまえにこの本を借りたひとがはさんだままにして返却してしまったのだろう。本はいちどに五冊まで借りられることになっていて、このひともこの「焚き火大全」のほかに三冊、全部で四冊の本を借りていた。

 焚き火大全
 古典落語志ん生集
 毎日の子どもレシピ
 ごみぶくろのパクンち

なんだこれは。おもわずおれはくびをひねった。いったいどんなひとがこういうふうな本の借り方をするんだろう。借り手の顔というものがみえてこない、ふしぎな組み合わせである。とくに、さいごがいちばん謎で、この「ごみぶくろのパクンち」がすべての推理をはばむ城壁のような役割をしている。これ、なんの本なんだろう? パクさんの家がごみぶくろなの? それとももしかして「ごみぶくろのボクンち」の誤植かな。でも、それしたってごみぶくろが家じゃなあ。どうやってそんなところにすむの? と、いくらかんがえてもぜんぜん意味がわからないので、しょうがないのでネットで検索してしまった。つまり、ヒマなわけである。で、さいしょなかなかたどりつけなくて苦労したけど、なんだかんだとがんばってやっとみつけましたよ。こんなの。
「ごみぶくろのパクンちゃん ノッポさんのえほん」
「パクンちゃん」か〜。それは盲点だったな〜。どうもレシートにはタイトルが10文字しか印刷できないようで、へんなところで切れてたものならしい。なるほどそうだったのか〜。って、「パクンち」が「パクンちゃん」になってもいまひとつなんの本なのかはわからないのだが、サブタイトルに「ノッポさんのえほん」とついているからにはあの、ノッポさんの絵本なんだろう。対象は幼児むけ。おお。幼児むけか。これは大ヒントだ。おおきく前進。してみるとこれらの本を借りてった犯人は(いつのまにか犯人あつかい)幼児だったらしい。三歳とか、四歳とか、そんなものか。しかもあわせて「毎日の子どもレシピ」を借りているのだから、どうやらこの幼児はじぶんでごはんをつくってたべてるらしい。なんと殊勝であることか。三歳にして自炊。三十にしてやっと立った孔子よりずっとえらい。じぶんでつくったごはんをたべて、食後のささやかなたのしみは志ん生落語。しぶいねどうも。まいったね。そんなしぶい子供でいるのは、それなりにストレスがたまることではないのだろうか、といったわれわれの心配は無用だ。なぜならかれは日々の暮らしにつかれたとき、焚き火をして癒されている。それがかれのストレスへの対処法なのだ。おれのまぶたの裏には、かれが焚き火をしている光景がまざまざと浮かんでくる。ぱちぱちと薪のはじけるおとをききながら、かれはひとりじっと炎をみつめている。ゆらめく炎がかれのかおを照らしている。山奥なのか、浜辺なのか、それはわからない。場所はどこだっていい。焚き火と、かれ。ほかにはなにもいらない。二時間でも、三時間でも、ときには五時間も、かれはひとりきり、そこにとどまってじっと炎をみつめる。ダウンジャケットのポケットから煙草をとりだし、炎にそのさきをちかづけて火をつける。煙草をふかくすいこんで、おとをたてて煙をはきだす。もう片方の手にはアルミのマグ。なかにはジャックダニエルがツーフィンガー。ここまで、ここをすぎず。三年間かたくなにまもりつづけてきた、それがかれのルールだ。夜空には満天の星。高いところを吹く風が、高い木の枝をゆらす。どこまでも暗く、どこまでもしずかで、どこまでも夜は深い。いま、この世界にはなにもない。あるのはただ、ほんのりとあたりをてらす炎と、それをみつめるかれ。それだけだ。どれくらいそうやって時をすごしたのだろう。やがて薪のはぜるおとがすくなくなってゆく。炎はだんだんとちいさくなってゆく。けれどもかれはまだうごかない。ただ、じっと炎をみつめている。それが消えてなくなるまでみまもりつづけ、とうとう完全に消えてなくなったとき、かれはすっかりと癒されている。かれはじぶんがもういちど生まれ変わったのだと実感する。そんな三歳児が、このまちのどこかに暮らしている。……いやいねえから。

●「焚き火大全」はほんとにさいしょから焚き火についてえんえんとかかれていました。よくもまあこんなに焚き火について語ることがあるものだと感心しました。
●しょ〜もないことですが「かきねのかきねのまがりかど、たきびだたきびだおちばたき」という歌があって、子供のころなぜか「たきびだたきびだ落ちマタギ」だとおもいこんでいた。「落ち武者」みたいなかんじで「落ちマタギ」というのがよのなかにはいて、鉄砲をかついで山のなかをウロウロしてるんだとおもいこんでいました。6歳かそれくらいのころ。マタギなんて言葉はしってるくせにこのイメージがおかしいことにはちっとも気づかなかった。

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