Dる
→というわけでわたくしがディーラーである。ディーラーとはなにか? さよう、ディーラーとはディールするひとのことである。なにをディールするのかといえば、オリジナルレジンキットである。ちがうかもしれない。よくわからない。あと、ガレキともいうみたいである。瓦礫ではない。そのガレキではない。たぶん。じゃあなんのガレキなのかというと、これもよくわからんけど、たぶんガレージキットだからガレキなんだとおもう。たぶん。じゃあオリジナルレジンキットはオレキじゃないのかお歴々。といいたくなるがあまりそうはいわないみたいである。たぶん。そのへん、どういう法則性があるのかはわからない。この、われながらなんだかよくわからないものをDルしているわたくし自身、なんだかよくわからないえたいのしれない人物なので、まあちょうどよい。Dりはじめてもうかれこれ10年くらいはたっているとおもうのだが、なぜそんなことになってしまったのかというと、これまたよくわからない。ともかく月日はながれ、橋の下をそのぶんの水がながれ、いつのまにかわたくしはDラーである。Dってるんである。そして、Dリングの季節がまたやってくる。2月と7月。年に2回、わたくしがDるときである。へらっしゃいませえ。とかいいながら、おそらくハタからみたらおそろしくあやしげなほほえみを力なくうかべてレジンキットを販売するんである。レジンキットというのは、ひらたくいうと「美少女フィギュア」というやつである。いわゆる。あれである。あれの、色のぬられていない、組み立てられてさえいない、ばらばらの部品が袋のなかにちらばっているだけの、未塗装未完成品をうる。うるというのは買うひとがいるから成り立つわけだが、そういうキトクなひとがなぜかいる。うれる。だから、ここぞとばかりにうってうってうりまくる。さすがに10年もやっていると、いろいろなひとがわたくしのまえにあらわれて、いろいろな表情をわたくしに見せ、いろいろなことをわたくしに伝えていった。印象的なかたもたくさんおられた。というか、基本的にこの世界、印象的なかたしかおられない。みなさん、ひとしく、印象的である。たとえば、夏は暑い。というか、熱い。この会場、熱い。hot.おまけにみなさんそんなのはしったこっちゃない。購買意欲に燃え盛っておられる。ひとりひとりが周囲の気温を0.1℃くらいずつあげて、目を血走らせて行列にならび、あるいは一心不乱に目的地をめざして移動している。そういうひとが数千人いる。もっといるかも。だから、そりゃもう、hot.なので、みんな汗だくだったりする。なかには「あなたたったいま海浜幕張の海からあがってきたところではないのですか?」とたずねたくなるようなずぶ濡れの紳士が、わたくしの売り場の列にならならんでいたりする。はあはあぜえぜえといいながら。このままこのひと、ここでブッ倒れて死んだりしないだろうなあと心配になって、さっきもらったガルパンのうちわであおいであげたりする。だいじょぶですか、あついですねえ、とか話しかけながら。ありがとうございます、と感謝されたりする。いえいえどうも、とこたえて、おたがいに笑顔になったりする。ディーラーたるもの、やはり細かいこころ配りがたいせつなんである。あと、女性のお客様に、どうやって色はぬるのか、どうすればうまくぬれるのか、こつはあるのか、とたずねられたりする。これはわりとしょっちゅうある。そんなのおれだってしらないよ。あ。ちがう。ディーラー、言葉まちがえました。それはわたくしもぞんじません。こっちがおたずねしたいくらいです。といいたいのはヤマヤマなのだが、やはりそこはディーラー、なにか適当なことをいわなくてはいけない。「うまくなんてぬらなくていいんです。心をこめてぬりぬりしてあげてください。愛です。愛でぬるんです。一筆一筆。そうしてできあがったフィギュアは、世界でたったひとつの、あなただけのたからものです。一生のたからものです。うまいとかへたとかじゃない。愛です」とかなんとか。そうしてくだんのお客様のおかおをみつめると、なんだか感心なさっておられるみたいである。そうして財布に手がのびる。お買い上げありがとうございます。じぶんでもふしぎなのだが、こころにもないことをいうとき、なぜかわたくしはとても饒舌になる。ついでに活舌もひじょうによくなる。まるで台本を暗記してきた演劇部員みたいなことになる。最終的にひとから信頼をえられないのは、わたくしのこういうところにあるのではないか。とわたくしはちょっとおもったりする。あとディーラーとしてこまるのは、注文をされるときに商品名をいわずに「○○くん」とか「○○ちゃん」とかの愛称でいわれたりとか、あと役柄とか役職とか立場とかなんだかいろいろな呼ばれ方があって、それでいわれてしまうときである。これもよくある。すごくよくある。おなじキャラクターなのにいくつも呼び方があって、そうすると、これはさすがにごまかしがきかない。こっちはどれがだれなのか、あんまりわかっていなかったりする。だってしらないんだもん。ちゃんと商品名いってくれよ。などといえるわけもなく、ひたすら恐縮しながら、それはこれのことですか、それともこっちのこれのことですか、とたずねることになる。そんなことをしていると、売り場のまえの列がどんどんのびてゆく。そっちにならばないでくださあい。通路ふさがないでくださあい。こっちに並んでくださあい。と行列指導をしたりする。世の中にはそういう行為がある。お客様はみなさん印象的で個性的ななかたがただが、それとどうじにみなさんひじょうに素直なひとばかりである。羊のように従順である。こっちに並べといえばすなおにそっちへゆく。あっちをむけといえばあっちをむく。で、行列はこれでいいとして、あんたはどれがほしいんだ。これか。あれか。両方か。なに? 3つくれ? いやだめだ。これはひとり一個までだ。それが決まりだ。それより多くは売れない。そんなこともしらないのか。ち。しろうとはこれだから。あっ、またそっちにならんでるっ。だめだめ、こっちに並んでください。とかなんとか。ディーラー、いろいろ大変である。でも、じつをいうとけっこうたのしい。ディーラーとして大変なのははじめの小一時間くらいで、なんでかというと売り切れちゃったりするからである。うれるやつはあっというまに売り切れる。はじめの数十分でぜんぶはけてしまう。そこでうれ残ったのは、もうあんまりうれない。一時間にいっことか、ぽつりぽつりとうれてくのみである。どのへんにうれる要素があって、うれないのはどのへんがだめなのか、そのあたりのことはディーラーにはあまりよくわからない。とりあえず、嵐のような開始数十分がすぎてしまえばあとは気楽なもので、そのあとはぼーっとあたりをゆきかうひとをながめて、コスプレのひとっていうのは布があんなにすくなくて、あれはあれでいいのかなあといぶかったりとか、てきとうにそのへんをぶらぶらながめてあるいて、じょうずなフィギュアには感心をしたりだとか、個性がさく裂してるやつに度肝をぬかれたりとか、あまりに感心したときはいっそディーラーさんに話しかけてみたりとか、そんなふうにしてすごしているのもまたなかなかにたのしい。そんなたのしいこんどのフェスティボーは今月末。Dってきます。おお。あなたは参加なさるのですか。じゃあ、どっかですれちがったりするかもしれませんね。
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